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女神に魅せられて1 『有元利夫と女神たち』 [音楽・アート・イベント]


塗り重ねられた朱色の壁にはカーテン(幕)がかかったように見える。
まるで手品師のように両の手を出し、宙に浮いた花を受け止めようとしているのか、
いや、しかしその女(ひと)の目は花など見ていない。
どこかしらある一点をじっと見ている目。

本棚の片隅に眠っていたこの画文集が引っ越しを機に、再び私の目の前に現れた。
懐かしい過去を振り返りつつ、パラパラとページをめくる。
写真を始める前、上京してグラフィックデザイナーの仕事をしていた時期に、
書店で目に留まり迷わずに購入したのだった。
本の帯には「天使がいざなうキャンバスのなかの時間旅行。」とあり、
私は、描かれた女たちの独特のしぐさやその不思議な世界に魅了され、
飽きもせずに眺めていたのを覚えている。

だから、何度かの引っ越しを経て、たくさんの本を処分してもこの本は捨てられなかった。
やがて写真をやり始めてからは、この本のことはすっかり忘れ、
いつのまにか本棚の奥にしまい込んだままになっていた。
今また、新たな出会いを得て、彼の生い立ちやら、芸大時代の思い出やら
絵が生まれる過程についての話し、絵描きとしての思いなどが綴られた文章を読み返している。
彼のモノを作ることへの探究心や独創性などがあちこちに表れていておもしろい。
そして、寂しがりやだったり、たとえば、「原理」というものは、平常心というか平静な
心の状態でごく普通にやっていることの中に含まれているはず、、などという文章に
共感したり、彼が語る気負いのない言葉の中に、
おおいなるインスピレーションを感じてしまう。
まだ若かったあの頃に読んでいても、たぶんピンとこなかっただろう。
だから、今また、自分のスタイルを創ることを生き生きと語る
あの時代の有元利夫に再会できてよかった、、そう思うのです。

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有元利夫はイタリア古典と日本の古典に影響を受け、
岩絵の具を使ったフレスコ画風の独特の作風で
絵(タブロー)にとどまらず、版画や彫刻も手がけた。
1978年に作品「花降る日」と「古楽」で安井賞の特別賞を、
81年に「室内楽」で安井賞を受賞している。
将来を期待された、その4年後に38歳という若さでこの世を去った。


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マンボウ

昨年実家の整理をしていて学生時代の品が沢山出てきました。
「なんでこんな物まで取って有ったんだ? そんなつまらぬ物までも・・・。」その中に卒業後通った時に使った製図用品(製図板・T定規・コンパス・三角定規・縮尺定規・カラス口・・・etc.)、一瞬にして昔に戻ります。。。
そして・・・ふっと我に還ってにやりと笑った気がします。
楽しい・辛い・嬉しい・情けない・甘酸っぱい・・・そんな思い出が一瞬だけ頭をよぎりました。
「あの頃に戻りたい?」・・・いや、今で良いですよ。。。そんな青春でした。

関係ない話で御免なさい。m(__)m
ほら、音楽と美術は苦手な分野だったから・・・。 (>_<)
by マンボウ (2006-07-30 01:25) 

みや

製図用品、マンボウさんも使われていたのですね。
私にも少しなつかしいです。
音楽と美術系に、今は大きく関わられていますね。
そして、写真も最近は腕をあげられていますよね。。
by みや (2006-07-30 10:04) 

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